国立健康危機管理研究機構(JIHS)の2026年第3四半期資料では、2026年第1週から第39週までに届け出られた梅毒の報告数を集計している。
四半期別の内訳は次のとおりだ。
- 第1四半期:2,665件
- 第2四半期:3,110件
- 第3四半期:2,716件
合計は8,491件。第2四半期に増加した後、第3四半期には減少する動きとなった。
第3四半期は前年同期比24.5%減
特に注目されるのが、2025年と2026年の第3四半期の比較だ。
JIHSの2026年第3四半期資料では、2025年の同期間の報告数を3,596件、2026年を2,716件としている。差は880件で、前年同期比約24.5%減となった。
ただし、この数字だけで梅毒の流行が収束したとは判断できない。2026年の第1〜3四半期だけでも8,491件が届け出られており、依然として相当数の報告が続いている。
また、前年の第3四半期については、2025年10月公表時点の資料では3,382件だったものが、2026年の比較資料では3,596件となっている。届出の遅れや再集計によって過去の数字が変わることがあるため、前年同期比を比較するときは、同じ資料に掲載された数値を使用することが大切だ。
8,491件は10月末時点の最新累計ではない
今回の8,491件は、2026年9月30日までに届け出られた症例を集計した四半期データである。第39週に診断されていても、9月30日までに届出がなかった症例は含まれていない。
加えて、10月27日にはJIHSから2026年第42週のIDWR速報データが公開されている。したがって、8,491件は男女別・年代別・都道府県別の詳細を確認するための9月30日時点の基準値であり、10月末までの最新週次累計とは区別する必要がある。
【男女別・年代別】梅毒感染者数は男性と女性で傾向が違う

梅毒の報告状況を読み解くうえで重要なのが、性別と年齢による違いだ。
2026年第3四半期の性別・年齢別集計では、男性1,779件、女性937件となっている。男性が全体の約65.5%、女性が約34.5%を占めた。
男性は20代から60代以上まで幅広い
男性では、2026年第3四半期に25〜29歳が247件で最も多かった。次いで60歳以上が235件、30〜34歳が202件、50〜54歳が190件となっている。
この分布から読み取れるのは、男性の梅毒感染が若年層だけに限られていないことだ。
20代後半を中心としながら、30代、40代、50代、60歳以上にも報告が広がっている。年齢を理由に感染リスクがないと考えるのは適切ではない。
女性は20代の報告が目立つ
女性では20〜24歳が334件、25〜29歳が200件だった。合計534件で、女性の報告数937件の約57%を占める。
特に20〜24歳の報告数が多い点は注目される。15〜19歳でも90件が報告されており、若年層への予防啓発や検査機会の確保が課題となっている。
厚生労働省も、男性では20〜50代、女性では20代の報告が多い傾向を紹介している。
2026年の四半期別・男女別報告数
以下はJIHSの第3四半期資料に掲載された性別・年齢別集計を整理したものだ。
| 期間 | 報告総数 | 男性 | 女性 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年第1四半期 | 2,665件 | 1,709件 | 956件 | - |
| 2026年第2四半期 | 3,110件 | 2,019件 | 1,090件 | - |
| 2026年第3四半期 | 2,716件 | 1,779件 | 937件 | 約24.5%減 |
| 第1〜3四半期合計 | 8,491件 | 5,507件 | 2,983件 | - |
※男女別の合計は性別・年齢別集計に基づく。年齢情報が不明または調査中の症例は同表に含まれないため、男女別の合計と報告総数が1件異なる場合がある。
この数字から分かるのは、男性の報告が女性を上回る状態が続いている一方、女性の20代にも報告が集中しているということだ。性別によって異なる感染傾向を踏まえた対策が求められる。
【都道府県別】梅毒の報告数が多い地域はどこ?
梅毒の発生状況には地域差もある。JIHSの2026年第3四半期資料では、全国47都道府県について報告数を集計している。
第3四半期の報告数が多い都道府県
2026年第3四半期の報告数上位は次のとおりだ。
- 東京都:626件
- 大阪府:291件
- 愛知県:234件
- 福岡県:192件
- 神奈川県:139件
東京都は全国でも突出しており、大阪府、愛知県、福岡県などの大都市圏も報告数が多い。
ただし、人口の多い地域では患者数の実数も大きくなりやすい。単純な報告件数だけで地域の感染リスクを比較することはできない。
人口100万人当たりの報告数で見ると順位が変わる
地域の状況を比較する際には、人口当たりの報告数も参考になる。
2026年第3四半期の人口100万人当たりの報告数は、東京都44.6件、福岡県37.4件、大阪府32.9件、愛知県31.0件、愛媛県26.2件だった。
この指標では、報告数の実数だけでは見えにくい地域差が浮かび上がる。
なお、人口当たりの数値は2020年国勢調査の人口を基準にしたものであり、個人が感染する確率を直接示すものではない。
2026年第1〜3四半期の累計でも東京都が最多
各四半期の都道府県別報告数を合算すると、東京都は2,015件、大阪府は955件、愛知県は645件、福岡県は532件、神奈川県は468件となる。
都市部で報告数が多い背景には、人口規模や人の移動、性的接触の機会、検査・診断体制など複数の要因が関係する。地域別の数字だけから、特定の地域や属性に感染原因を求めることはできない。
【過去の推移と先天梅毒】2022年以降の増加と2026年の現状
2026年の報告数を理解するには、過去の梅毒感染者数の推移も確認しておきたい。
2010年から2025年までの年間報告数
厚生労働省の統計資料によると、日本の梅毒報告数は2010年代前半には比較的少なかったものの、2015年以降に増加が目立つようになった。
- 2010年:124件
- 2015年:760件
- 2018年:2,416件
- 2019年:2,255件
- 2020年:1,965件
- 2021年:2,717件
- 2022年:8,701件
- 2023年:13,530件
- 2024年:15,055件
- 2025年:13,963件
2024年の15,055件は、2010年以降の年間報告数として非常に高い水準だ。2025年は13,963件となり、前年を下回った。ただし、2025年の数字は感染症発生動向調査週報第52週に基づく速報値であり、2024年の確定値とは集計上の性質が異なる。
2022年から2024年にかけて報告数が急増したこと、2025年に減少へ転じたこと、そして2026年も9月末までに8,491件が届け出られたことを合わせて見ると、短期的な減少と長期的な感染拡大の影響を分けて考える必要がある。
先天梅毒の報告数も見逃せない
梅毒対策では、成人の感染だけでなく先天梅毒への対応も重要になる。
先天梅毒とは、妊娠中に感染した母親から胎盤を通じて胎児に梅毒トレポネーマが感染することによって起こる病気だ。
JIHSの2026年第3四半期資料によると、先天梅毒の報告数は次のとおりとなっている。
- 2025年第3四半期:11件
- 2025年第4四半期:6件
- 2026年第1四半期:10件
- 2026年第2四半期:6件
- 2026年第3四半期:7件
2026年第1〜3四半期の先天梅毒報告数は合計23件である。
妊娠中の梅毒感染は、胎児の健康に重大な影響を及ぼす可能性がある。死産や早産、出生後の神経・骨の異常などにつながることがあり、出生時に症状がなくても後から症状が現れる場合がある。
一方、妊娠中に発見して適切な治療を受ければ、胎児への感染リスクを下げられる。妊娠前の検査だけでなく、妊娠中の適切な検査と診療を継続することが大切だ。
【梅毒の初期症状と感染経路】気づかないうちに感染する理由
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌によって起こる性感染症だ。主な感染経路は性的接触であり、性別や年齢、性的指向にかかわらず感染する可能性がある。
初期症状は痛みの少ないしこりやただれ
梅毒の初期段階では、感染した場所にしこりや潰瘍ができることがある。
代表的な症状は次のとおりだ。
- 性器や口の中にできる小さなしこり
- 痛みの少ない潰瘍やただれ
- 症状が一時的に消えること
初期の症状は痛みが少ない場合があり、本人が感染に気づかないこともある。加えて、症状が自然に消えたように見えても、病原体が体内からなくなったとは限らない。
第2期には手のひらや足の裏に発疹が出ることも
感染後に進行すると、全身に発疹が現れることがある。特に手のひらや足の裏に、痛みやかゆみを伴わない発疹が広がるケースが知られている。
こうした症状は梅毒を疑う手がかりになるが、発疹の出方には個人差がある。皮膚症状だけで自己判断することはできない。
症状がない場合も感染している可能性がある
梅毒の厄介な点は、感染していても自覚症状がない場合があることだ。
無症状のまま経過するケースでは、本人が感染に気づかず、パートナーに感染させてしまう可能性もある。
治療を受けずに長期間放置すると、数年から数十年後に心臓や血管、脳などに病変が生じることもある。
主な感染経路は性的接触
梅毒は感染した人の病変と粘膜や皮膚が接触することで感染する。性器同士の接触だけでなく、オーラルセックスやアナルセックスでも感染する可能性がある。
コンドームは感染リスクを下げるために有効だが、覆われていない部分の皮膚や粘膜から感染する可能性があるため、完全な予防策ではない。
一度治療しても免疫が十分に成立するわけではなく、再感染することもある。過去に梅毒にかかった経験がある人も、新たな感染には注意が必要だ。
【検査方法・治療方法】梅毒が心配なときに取るべき行動
梅毒は早期に発見して適切な治療を受けることが重要な感染症だ。自覚症状がある場合だけでなく、感染の可能性があった場合にも検査を検討したい。
梅毒の検査は主に血液検査で行う
梅毒の診断では、医師による診察と血液検査による抗体の確認が基本となる。
検査では、梅毒に対する抗体の有無や数値を調べ、症状や感染の可能性がある時期などと合わせて医師が判断する。
必要に応じて、病変から検体を採取する検査やPCR検査が実施される場合もある。
検査を受けられる場所は主に次の2つだ。
- 保健所・自治体の検査機関:地域によって匿名・無料の検査を実施している。
- 医療機関:症状がある場合や、パートナーの感染が判明している場合などに受診する。
保健所の検査は実施日や検査項目が施設によって異なるため、事前に確認しておきたい。
治療にはペニシリン系抗菌薬などを使用
梅毒は適切な抗菌薬治療によって治癒が期待できる。厚生労働省によると、治療にはペニシリン系などの抗菌薬が使用され、病状に応じて飲み薬、点滴、筋肉注射などが選択される。
治療方法や期間は感染時期、病期、症状などによって異なるため、医師の判断が必要になる。
症状が改善しても自己判断で薬を中断してはいけない。治療後も医師の指示に従って検査を受け、治療効果を確認することが重要だ。
パートナーも検査・治療を受けることが重要
本人だけが治療を受けても、パートナーが感染したままでは再感染する可能性がある。
梅毒と診断された場合は、パートナーにも医療機関での検査を勧め、必要に応じて治療を受けてもらうことが大切だ。
また、治療が完了するまでは医師の指示に従って性交渉を控える必要がある。
検査を先延ばしにしないことが最大の対策
梅毒の症状はほかの皮膚疾患などと似ている場合があり、見た目だけで感染を判断することは難しい。
感染の可能性がある行為があった場合や、性器・口腔内の異常、原因不明の発疹が見られた場合は、早めに医療機関へ相談したい。
無症状であっても感染の心配がある場合は、検査の適切な時期について医師や保健所に相談することが望ましい。
【梅毒感染者数】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2026年の梅毒感染者数は何人ですか?
A1:JIHSの2026年9月30日時点の第3四半期資料では、第1四半期2,665件、第2四半期3,110件、第3四半期2,716件で、合計8,491件です。これは9月30日までの届出を集計した数字であり、10月以降の週次速報とは集計期間が異なります。
Q2:2026年第3四半期の梅毒報告数は前年より増えていますか?
A2:減少しています。2026年第3四半期は2,716件で、前年同期の3,596件から880件減りました。前年同期比では約24.5%の減少です。ただし、感染が収束したことを意味する数字ではありません。
Q3:梅毒は初期症状がなくても感染していますか?
A3:はい。梅毒は無症状の場合もあり、本人が感染に気づかないことがあります。性器や口の中のしこり、手のひらや足の裏の発疹などが現れる場合もありますが、症状の有無だけでは判断できません。感染の可能性があれば血液検査を受け、医師に相談してください。
まとめ:2026年の梅毒感染者数から見える今後の課題
2026年9月30日時点の梅毒報告数は、第1〜3四半期の合計で8,491件となった。第3四半期は前年同期比約24.5%減と改善が見られるものの、依然として多くの報告が続いている。
男女別では男性が約3分の2を占め、女性では20代の報告が目立つ。地域別では東京都、大阪府、愛知県などの都市部で報告数が多く、先天梅毒も2026年第1〜3四半期で23件報告されている。
【プロの結論】数字の減少だけで安心せず、早期発見を優先する
今回の統計から読み取るべき要点は、単純な報告数の増減ではない。
第一に、前年同期比が減少していても、感染のリスクそのものがなくなったわけではないこと。第二に、男性と女性では年代別の傾向が異なるため、幅広い年齢層への情報提供が必要であること。第三に、無症状の感染や先天梅毒への対策も欠かせないことだ。
特に大切なのは、症状が出るまで待たず、感染の可能性があれば検査につなげること。梅毒は早期発見と適切な治療によって治癒が期待できる感染症であり、パートナーとともに検査・治療を受けることが感染拡大の防止につながる。
2026年の報告数は今後も週次で更新される。9月30日時点の8,491件を一つの基準としながら、今後のIDWR速報やJIHSの四半期資料、厚生労働省の確定統計を継続して確認することが重要だ。
主な公的根拠資料
- JIHS「日本の梅毒症例の動向について(2026年9月30日現在)」
- 厚生労働省「梅毒」発生状況・症状・感染経路・治療方法
- 厚生労働省「梅毒に関するQ&A」
- JIHS「IDWR速報データ 2026年第42週」
- 厚生労働省「梅毒の発生動向について・先天梅毒について」