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シカの鳴き声は何を伝える?「フィーヨー」と最新研究を徹底解説【2026年版】

黒瀬 亮 黒瀬 亮 • 更新: • 公開: • 読了約 20 分
目次

秋の山や森で、遠くから「フィーヨー」という甲高く長い声が聞こえてきたら、ニホンジカのオスが発している繁殖期の鳴き声可能性があります。シカは「フィーヨー」と鳴くだけではなく、危険を感じたときの短い警戒音、親子が互いを探す呼び声、ほかの個体を威嚇するときの声など、状況に応じてさまざまな音を使い分けています。

注目したいのは、シカの鳴き声に関する研究が進み、発声する時間帯についても新しい知見が得られていることです。2025年に山形大学などの研究成果として公表された調査では、「シカは明け方と夕方に鳴く」という従来の見方が見直されました。さらに2026年10月には、人間などに対する警戒心が発情期の鳴き声を減らす可能性を示した研究も発表されています。声の種類から生態、最新研究まで、聞き分けるためのポイントを整理します。

【この記事の重要ポイントまとめ】
  • シカの代表的な鳴き声:オスの繁殖期の声は「フィーヨー」「ヒョーン」などと表現され、警戒音や親子の呼び声とは音の特徴や状況が異なる。
  • 秋や夜に鳴く理由:秋は繁殖期にあたり、オスが縄張りを主張したりメスとの関係を保ったりするために発声する。鳴く時間帯は明け方や夕方だけではない。
  • 最新研究のポイント:2025年の音響バイオロギング研究と2026年の広域調査により、発声は時間帯だけでなく、天候や周囲の危険に対する警戒状態にも左右されることが示された。

【まず知りたい】シカの鳴き声は何て鳴く?文字で表現すると

シカ鳴き声

シカの鳴き声は、人間の言葉のように決まった一つの音ではありません。長く伸びる声、短く鋭い声、低く濁った声などがあり、性別や年齢、発声時の状況によっても聞こえ方が変わります。

ニホンジカの鳴き声を文字で表現する場合、代表的なのは「フィーヨー」「ヒョーン」「ピィッ」などです。文字による表現は、実際の音を理解するための手がかりになりますが、同じ声でも聞く人や環境によって表記が異なる点には注意が必要です。

森林研究・整備機構の森林総合研究所四国支所は、秋の繁殖期にオスが発する声を「フィーヨー」と紹介しています。遠くから聞こえることがあり、声が3回ほど続く場合もあると説明しています。

また、越前市の鳥獣害対策に関する解説では、交尾期のオスの声が「ヒョーン」と表現されています。これらは別の動物の鳴き声という意味ではなく、地域や観察者、音の聞こえ方による表現の違いと考えられます。

鳴き声は「長さ」と「音の質」で印象が変わる

シカの発声を聞き分ける際は、文字による擬音だけで判断せず、声が長く伸びるか、短く切れるか、澄んでいるか、濁っているかにも注目しましょう。

  • 長く伸びる声:秋のオスの繁殖行動に伴う声である可能性がある。
  • 短く鋭い声:人やほかの動物に気づいたときの警戒音である可能性がある。
  • 低めの声や小さな声:個体同士の接触や親子間のコミュニケーションなど、近距離でのやり取りに関係する場合がある。

1992年に日本哺乳類学会誌で発表された南正人氏と川道武男氏の研究では、ニホンジカの鳴き声620例を分析し、音響的な特徴に基づいて5つの大きなグループと13種類の発声型を識別しています。縄張りを知らせる長く大きな声と、警戒時の短く高い声などが区別されました。シカの音声は、単純に「鳴く・鳴かない」だけでは説明できない多様なものなのです。

【検証資料 1】当時のメディア報道・掲載写真(出典:i.ytimg.com)

【声の意味を整理】発情声・警戒音・親子の呼び声・威嚇音の聞き分け方

シカが鳴く理由を理解するには、音だけでなく、季節、周囲の環境、鳴く直前の行動を合わせて観察することが大切です。野外で耳にする代表的な鳴き声を、目的別に整理します。

鳴き声の種類 文字での表現例 主な意味・聞き分けのヒント
発情声・求愛に関係する声 「フィーヨー」「ヒョーン」 秋の繁殖期にオスが発する。長く響く声が特徴的
警戒音 「ピィッ」「ピャッ」 危険や人の接近などに反応して発する短い声
親子の呼び声 「ググググ」など 親子が互いの位置を確かめる際などに聞かれる声
威嚇に関係する声 鋭い声や「チュィーン」など 対立や攻撃的な行動に伴って聞かれる場合がある
低い声・濁った声 一定の文字表現はない 近距離の個体間コミュニケーションなど、状況によって意味が変わる

※擬音は音の印象を伝えるための表現例です。個体差や地域差があり、文字表現だけで発声の目的を確定することはできません。

1.「フィーヨー」はオスの繁殖期の声

秋に森から響く「フィーヨー」という声は、ニホンジカのオスが繁殖期に発する代表的な鳴き声です。繁殖期のオスは、ほかのオスに縄張りを知らせたり、メスとの繁殖行動に関係するコミュニケーションを取ったりします。

研究では、オスの繁殖期の声は大きく「ハウル(howl)」と「モウン(moan)」に分けて扱われています。ハウルは縄張りの主張に関係する声、モウンはメスを囲い込む際などに使われる声とされています。日常的な日本語の擬音と学術研究上の分類は必ずしも一対一で対応するわけではありません。

2.警戒音は短く、周囲の変化に反応して発せられる

シカは人間などの接近に気づくと、短く鋭い声を発することがあります。奥多摩ビジターセンターの自然解説資料では、危険を感じたときの声が「ピィ!」と表現されています。

警戒音は、周囲の危険に反応したことを知る手がかりです。ただし、声が聞こえたからといって、必ずしも捕食者が近くにいるとは限りません。登山者や車両など、人間の活動に反応している可能性もあります。

3.親子の呼び声は、互いの位置を確かめるための手がかり

親子のシカも、互いの位置を確かめるなどの場面で鳴き声を使います。奥多摩ビジターセンターの資料では、母子の呼び声の例として「ググググ」という表現が紹介されています。

ただし、すべての親子が同じ声を使うわけではなく、声の種類や聞こえ方は状況によって異なります。子ジカが一頭でいるように見えても、母ジカが近くにいる可能性があります。保護しようとして近づいたり、触れたりせず、距離を保って見守ることが基本です。

4.威嚇音は発情声とは限らない

シカは個体間の対立や攻撃的な行動に伴って声を発することもあります。こうした音は、繁殖期に遠くまで響く発情声とは、音の長さや発声する状況が異なる場合があります。

一方で、近距離のコミュニケーションでは、複数の発声型の音響的な特徴が重なり合うことも研究で示されています。声だけで「威嚇している」「求愛している」と決めつけず、角の向き、姿勢、相手との距離、追いかける動作などを合わせて判断する必要があります。

【秋と夜に鳴く理由】ニホンジカの発情期と発声時間の定説が変わった

秋にシカの鳴き声が目立つのは、ニホンジカの繁殖期と重なるためです。越前市の生態解説では、交尾期はおおむね9月下旬から11月頃とされています。ただし、繁殖の時期や鳴き声が増えるタイミングには、地域や個体群による違いがあります。

秋の発情声には、縄張りやメスとの関係をめぐる意味がある

繁殖期のオスは、ほかのオスとの競争やメスとの繁殖行動に関わる発声を行います。長く響くハウルは縄張りを主張する役割を持ち、モウンはメスを囲い込む場面などに関係します。

山形大学などが2025年に公表した研究では、録音機やGPSなどを組み合わせた首輪を野生のオスジカに装着し、発声の様子を詳しく調べました。捕獲した10頭のうち7頭からデータを回収し、合計1,109時間の音響データから6,846回の鳴き声を抽出しています。内訳はハウル362回、モウン6,484回でした。

この研究の重要な点は、オスの発声を一律に扱わず、声の種類によって頻度や生態的な意味が異なることを示した点です。モウンの発声頻度は個体差が大きく、繁殖縄張りの中心部で増えやすいことも分かりました。

シカの鳴き声が夜に聞こえるのはなぜ?

夜にシカの声が聞こえるのは、繁殖期の発声が夜間にも起こることに加え、周囲が静かになって遠くの音に気づきやすくなるためと考えられます。夜に聞こえる声が、必ずしも夜行性の活動だけを示すわけではありません。

2021年に発表された奈良公園と宮城県・金華山の調査では、オスの発情声ハウルの頻度に日周変化が見られました。奈良公園では11月に発声が最も多く、日の出と日の入り頃にピークがあり、夜間にも小さなピークが確認されています。金華山では10月上旬から中旬に発声が多く、日の入り頃にピークが見られました。

ただし、この結果だけから「シカは明け方と夕方にしか鳴かない」と考えるのは適切ではありません。調査地域や対象となった発声の種類によって、観測されるパターンは異なるためです。

【検証資料 2】活動歴および当時の関連ビジュアル記録(出典:tiktok.com)

【2025〜2026年の最新研究】シカの発声行動は時間帯だけでは説明できない

シカの鳴き声について、2025年から2026年にかけて重要な知見が相次いで公表されました。注目点は、発声時間の見直しと、人間などに対する警戒状態が声の出し方に影響する可能性です。

2025年:明け方と夕方だけに鳴くという見方を見直す

山形大学などの研究成果は、2025年10月14日に国際誌「Mammalian Biology」で公開され、同年11月6日に大学から研究内容が発表されました。野生のオスジカに音響レコーダーを搭載した首輪を装着する「音響バイオロギング」によって、野外での発声を個体の行動と結びつけて記録した研究です。

研究では、ハウルとモウンの両方が一日を通じて発声されることが多く、「薄明薄暮にシカは鳴く」という定説は正確ではないと報告されました。加えて、風雨による環境雑音が大きい条件では、両方の声の発声頻度が大きく低下しました。声を出しても他個体に届きにくい環境では、発声の頻度を下げる可能性が示されています。

つまり、シカの発声は時計の時刻だけで決まるものではありません。周囲の音環境、ほかの個体とのコミュニケーション、繁殖縄張り内での位置などが関係しています。

2026年10月:危険を感じると発情声を減らす可能性

さらに2026年10月、学術誌「Animal Behaviour」に、江成広斗氏、角田裕氏、江成はるか氏らによる「Silencing as an antipredator tactic: perceived risk inhibits rutting calls in sika deer」が掲載されました。人間などの存在によって危険を感じた野生動物が、積極的に発声を控える可能性を調べた研究です。

研究チームは、日本本土の21地点を対象に、2021〜2024年の秋季に録音された発声を分析しました。音響データは合計1,960日分に及び、対象とした鳴き声は45,139回、カメラトラップによる行動評価には651本の映像が使われています。

分析の結果、警戒行動が強い場所では、オスの2種類の発情声の発声頻度が有意に低下しました。一方、危険を知らせる警戒音については、警戒行動の強さによる影響が小さいという結果でした。発情声を減らすことが、捕食者などに自分の居場所を知られにくくする行動に関係している可能性があります。

この結果は、「鳴き声が少ない場所にはシカがいない」とは限らないことも示唆します。シカが生息していても、周囲の危険を強く意識しているために発情声が少なくなっている可能性があるからです。

音声を使ったシカの生息調査にも応用が広がる

発声の研究は、シカの行動を理解するだけでなく、生息状況の把握にも役立ちます。山形大学などの研究では、ハウルを繁殖集団の数を推定する指標に、モウンを繁殖に適した場所を把握する手がかりにできる可能性が示されました。

録音機による調査は、目視で見つけにくい個体を把握する際に有用です。ただし、声の回数をそのまま個体数に置き換えられるわけではありません。個体差、気象条件、周囲の騒音、警戒状態などを考慮して解釈する必要があります。

【シカとカモシカの鳴き声の違い】音声・動画で確認する際の注意点

山で聞こえた声がシカのものかどうか迷ったときは、ニホンジカとニホンカモシカの違いも知っておくと役立ちます。名前は似ていますが、ニホンジカはシカ科、ニホンカモシカはウシ科に分類され、生態にも違いがあります。

ふだんよく鳴くシカと、発声が目立ちにくいカモシカ

ニホンジカは、繁殖期の発情声や警戒音、親子の呼び声など、複数の状況で発声します。一方、ニホンカモシカは普段の生活ではあまり鳴かない動物として知られています。

野生動物保護管理事務所の研究員による2024年の報告では、調査中にカモシカが「シュッ、シュッ」という大きな音を出しながら逃げる様子が記録されました。同事務所の解説によれば、カモシカは警戒したときに鼻から強く息を吹き出すほか、「メェッ、メェッ」という小さな声や、攻撃を受けたときの「ボェー」という声を出すこともあります。

そのため、「カモシカは絶対に鳴かない」という理解も正確ではありません。普段は発声が目立ちにくいものの、警戒や個体間の対立など、状況に応じて音を出すことがあります。

見た目と行動も合わせて判断する

声だけでは種を特定しにくい場合、姿や行動も確認しましょう。ニホンジカは、成熟したオスに枝分かれした角があり、群れで行動する姿もよく見られます。一方、ニホンカモシカは雌雄ともに枝分かれしない短い角を持ち、基本的には単独で行動します。

音声・動画で聞き比べる場合は、自然解説施設や研究機関が公開する教材を利用すると、実際の発声を知る手がかりになります。奥多摩ビジターセンターの「目指せネイティブ!シカ語講座」のような自然解説資料では、発情声、警戒音、親子の呼び声、威嚇に関係する声が擬音とともに紹介されています。

ただし、録音された音は、撮影場所や季節、個体の状況によって条件が異なります。教材の音と完全に同じ声が野外で聞こえるとは限らないため、音の印象だけで鳴き声の意味を断定しないことが大切です。

【プロの結論】シカの鳴き声を正しく聞き分けるための判断基準

シカの鳴き声を理解するうえで大切なのは、声を単なる擬音として覚えるのではなく、発声した個体が置かれている状況と結びつけることです。最新の研究からも、鳴き声の種類、時間帯、環境音、警戒行動などが相互に関係していることが分かります。

聞き分けるときは、次の4点を確認する

  • 季節:秋なら繁殖期の発情声を候補に入れる。ただし、秋以外にシカが鳴かないわけではない。
  • 音の特徴:長く響く声か、短く鋭い声か、濁った声かを確認する。
  • 周囲の状況:ほかのシカがいるか、人や車両が近づいたか、風雨が強いかなどを考慮する。
  • 発声後の行動:オス同士の対立、メスへの接近、警戒姿勢、親子の移動などが見られるかを確認する。

この4点を合わせれば、音だけで判断するよりも、発声の目的を推測しやすくなります。ただし、野外では発声の瞬間や相手の姿を確認できないことも多く、複数の解釈が残る場合があります。

声が少ないからといって、シカがいないとは限らない

2025年の音響バイオロギング研究と2026年の広域調査が示したのは、シカの鳴き声が単純な存在確認のサインではないということです。風雨などの環境雑音が大きいときや、周囲に危険を感じているときには、発情声が少なくなる可能性があります。

そのため、録音調査や野外観察では、声の有無だけで生息状況を判断するのではなく、調査した時間、天候、周辺環境、対象となる鳴き声の種類を合わせて考える必要があります。

また、登山や夜間の山道でシカの鳴き声が聞こえたときは、鳴き声を確かめようとして不用意に近づかないことも大切です。シカは警戒すると逃げたり、急に移動したりすることがあります。特に夜間の車やバイクの運転では、声が聞こえた場所の周辺からシカが飛び出してくる可能性を意識してください。

【シカ鳴き声】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:シカの鳴き声は「フィーヨー」と「ヒョーン」のどちらが正しいですか?
A1:どちらもニホンジカのオスの繁殖期の声を表現する際に使われます。森林総合研究所四国支所は「フィーヨー」、越前市の生態解説は「ヒョーン」と紹介しています。擬音は聞こえ方によって変わるため、表記が違っていても、必ずしも別の種類の声を意味するわけではありません。

Q2:シカはなぜ夜に鳴くのですか?
A2:繁殖期の発情声は夜間にも発せられます。2025年の音響バイオロギング研究では、ハウルとモウンが明け方や夕方に限らず、一日を通じて発声されることが示されました。夜に声が聞こえるからといって、必ずしも異常な行動とは限りません。

Q3:シカの鳴き声を聞けば、発情しているかどうか分かりますか?
A3:秋に長く響く「フィーヨー」などの声が聞こえた場合、オスの繁殖期の発情声である可能性があります。ただし、警戒音や近距離でのコミュニケーションの声もあるため、音だけで発情していると断定することはできません。季節や周囲の状況、個体の行動を合わせて判断する必要があります。

まとめ:シカの鳴き声は季節・状況・最新研究を合わせて理解する

シカの鳴き声には、秋の繁殖期にオスが発する「フィーヨー」や「ヒョーン」、危険を感じたときの短い警戒音、親子の呼び声、個体間の対立に伴う声などがあります。それぞれの音は、シカ同士が繁殖や安全、個体間の関係に関する情報を伝えるための手段です。

2025年の研究では、シカは明け方と夕方だけでなく一日を通じて発声することが示され、2026年10月の研究では、周囲の危険に対する警戒が発情声を減らす可能性が報告されました。鳴き声を聞き分けるには、音の特徴だけでなく、季節、環境、個体の行動を総合的に見ることが欠かせません。

次に山や森でシカの声が聞こえたら、まずは距離を保ち、声の長さや音質、周囲の状況に耳を傾けてみてください。身近な自然の音を生態と結びつけて理解することが、シカの暮らしを知る第一歩になります。

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