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鹿の鳴き声は何を伝える?発情期の「フィーヨォー」と警戒音・親子の声を徹底解説

黒瀬 亮 黒瀬 亮 • 更新: • 公開: • 読了約 17 分
目次

秋の山や森から「フィーヨォー」という甲高い声が響いてきたら、それはニホンジカのオスが発する発情期の鳴き声可能性があります。人の叫び声にも似たこの音は、メスへのアピールや縄張りの主張に関わる重要なサインです。ただし、鹿の鳴き声は一種類ではありません。危険を仲間に知らせる警戒音や、メスが子鹿を呼ぶ声など、状況によって音の特徴も役割も異なります。

2026年に鹿の鳴き声を理解するうえで注目したいのが、山形大学などの研究グループが発表した音響バイオロギングの研究です。2025年10月に国際学術誌「Mammalian Biology」で公開された研究では、野生のオスジカの発声を詳しく分析し、「ハウル」と「モウン」という2種類の鳴き声が、繁殖集団の把握や繁殖に適した場所の推定に役立つことが示されました。身近な自然の音が、野生動物の生態を読み解く手掛かりになっています。

【この記事の重要ポイントまとめ】
  • 要点1:秋に響く「フィーヨォー」は、主にオスジカが繁殖期に発する大きな声で、縄張りの主張や繁殖行動に関係する。
  • 要点2:鹿の鳴き声にはハウル、モウン、警戒音、親子の呼び声などがあり、音の高さや長さ、鳴く状況から違いを考えられる。
  • 要点3:鳴くのは夕暮れや夜だけではない。山形大学などの研究では、ハウルとモウンが一日を通じて発声されることも明らかになった。

【鹿の鳴き声の意味】「フィーヨォー」は何を伝えている?

鹿の鳴き声

ニホンジカの鳴き声を理解するうえで、まず押さえたいのは、鳴く目的が繁殖だけではないという点です。シカは音声を使ってほかの個体と情報をやり取りします。繁殖期のオスが発する大きな声も、仲間や相手との距離、縄張り、繁殖集団の形成といった行動に結び付いています。

国立研究開発法人森林研究・整備機構の森林総合研究所四国支所は、2024年11月に公開したニホンジカの解説で、秋の繁殖期にオスが「フィーヨー」という声を発することを紹介しています。遠くまで響く声で、同じ鳴き声が続けて聞こえることもあります。

この声は、一般にラッティングコールと呼ばれる発情期の鳴き声です。英語の「rut」はシカなどの繁殖期を指します。大きな声を発することは、メスへのアピールやほかのオスへの縄張りの主張と関係しています。

ただし、「フィーヨォー」と聞こえたからといって、その場に必ずメスがいる、あるいはオス同士が直接争っていると断定することはできません。鳴き声は繁殖行動の一部を示す手掛かりであり、周囲の個体の配置や実際の行動まで、音だけで完全に把握できるわけではないからです。

また、鳴き声を聞く時期には地域差があります。秋に発声が目立つのは確かですが、地理的条件や個体群の状態によって、観察される時期や頻度は変わります。

【鹿の鳴き声の種類】ハウルとモウンは何が違う?

ニホンジカのオスが繁殖期に発する代表的な大きな声が「ハウル(howl)」と「モウン(moan)」です。どちらも繁殖行動に関わりますが、音の特徴や発声のされ方には違いがあります。

麻布大学の南正人氏による研究や、山形大学などの研究グループによる発表では、ハウルは縄張りの主張に関係する鳴き声、モウンはメスを囲い込む際などに発する鳴き声として説明されています。

鳴き声 音の特徴 主な役割・特徴
ハウル(howl) 澄んだ、甲高く遠くまで響く咆哮 オスの縄張りの主張に関係する。繁殖集団の把握に活用できる。
モウン(moan) 比較的濁った響きの咆哮 メスを囲い込む行動などに関係する。繁殖縄張りの中心や適地の推定に役立つ。
警戒音 「ピィッ」「ピャッ」などの短い音 危険を感じたときに仲間へ警戒を知らせる。
威嚇音 「ゲッ、ゲッ」といった短い音の連続など 相手を警戒させたり、威嚇したりする際に聞かれる。
親子の呼び声 高く細い声や、短く聞こえる声など 母ジカと子鹿が互いの位置を確かめるためのコミュニケーションに使われる。

ハウルとモウンは、単に声の高さが違うだけではありません。研究では、発声する頻度や、声がどのような場所で出されるかにも違いがあることが示されています。

過去の音声研究では、ハウルは条件によって約1キロメートル先まで届く一方、モウンは約200メートル程度まで届く声として報告されています。これは特定の研究で示された目安であり、実際に聞こえる距離は地形、風、植生、周囲の騒音などによって変わります。

モウンはハウルより頻繁に発声される場合があり、ほかの個体の鳴き声に反応して鳴き交わすこともあります。一方、ハウルは一日に何度も繰り返されるとは限らず、比較的遠方まで届く点が特徴です。

つまり、森の奥から長く響く大きな声と、やや濁った声が何度も続く場面では、異なる種類の発声が起きている可能性があります。ただし、実際の音には個体差があるため、聞こえ方だけで機械的に分類しないことも大切です。

【鹿の鳴き声が聞こえる時期と時間帯】秋の夜だけではない

鹿の発情声を聞きやすい時期として知られているのは、秋の繁殖期です。ニホンジカの発情期は一般に秋に訪れ、地域や個体群によって違いはあるものの、9月から12月ごろはオスの繁殖行動が活発になる時期として注意しておきたい季節です。

森林総合研究所の解説では、秋のオスが「フィーヨー」と鳴く様子が紹介されています。また、東京都御岳ビジターセンターのニホンジカの解説でも、10月を過ぎるころから、繁殖期のオスの高い声が頻繁に聞こえるようになると説明されています。

実際の発声時期については、調査地によって違いが見られます。南正人氏が2021年に「動物の行動と管理学会誌」で公表した研究では、奈良公園で1年間にわたって調査した結果、ハウルは9月から翌年3月まで確認され、11月に最も多くなりました。一方、宮城県の金華山では、調査期間中の8月下旬から11月上旬にかけて、10月上旬と中旬に発声頻度が高くなりました。

この結果からも、鹿の鳴き声が聞こえる時期を全国一律に決めることはできません。地域の気候や個体群の状態、調査期間によって観察結果は異なります。

時間帯についても、よくある誤解があります。シカは薄明薄暮、つまり明け方や夕暮れに活発になるイメージがありますが、発情声がその時間帯にしか出ないわけではありません。

2025年に山形大学などが公表した研究では、野生のオスジカに録音機を搭載した首輪を装着して発声を調べたところ、ハウルとモウンは一日を通じて発声されることが多いと報告されました。風雨などによって周囲の雑音が大きくなる条件では、これらの声の発声頻度が大幅に低下することも明らかになっています。

夜に鳴き声を聞くことはありますが、夜だけに限定される現象ではありません。日没後に聞こえたからといって、必ず夜行性の行動だけが原因というわけでもなく、季節と繁殖行動、周囲の環境を合わせて考える必要があります。

【オス鹿・メス鹿・子鹿の鳴き声】警戒音や親子の呼び声を聞き分ける

鹿の鳴き声を聞き分ける際は、オスの発情声だけでなく、メスや子鹿が発する音にも目を向けると理解が深まります。

オス鹿の鳴き声として代表的なのは、繁殖期に発するハウルやモウンです。特に大きく遠くまで響く「フィーヨォー」という声は、発情期のオスの存在を知る手掛かりになります。ただし、オスがいつも大きな声で鳴くわけではなく、気象条件や個体の行動によって発声頻度は変わります。

メス鹿の鳴き声には、子鹿を呼ぶときなどに発する声があります。一般財団法人奈良の鹿愛護会が紹介する奈良のシカの行動・生態資料では、子鹿を呼ぶ際のメスの声や、警戒時、威嚇時の声がそれぞれ区別されています。オスの発情声と同じように聞こえるとは限らず、短い声や高い声など、状況に応じた違いがあります。

子鹿の鳴き声は、母親との位置関係を確かめるためのコミュニケーションに関係します。野生動物保護管理事務所の飼育記録でも、子鹿が母親を求める声や、危険を感じた際の悲鳴に相当する発声、母ジカが子鹿を探す際の呼び声が紹介されています。母子の声は、親子が互いの存在を確かめるうえで大切な役割を果たします。

警戒音は、危険を感じたときに仲間へ知らせるための音です。農林水産省の鳥獣被害対策資料では、シカが危険を感じると「ピィッ」という警戒音を発することが説明されています。奈良の鹿愛護会の資料でも、警戒時の声が紹介されています。

一方、威嚇音は、相手を警戒させたり、距離を取らせたりする場面で聞かれる音です。奈良の鹿愛護会の資料では、威嚇時の声が「ゲ・ゲ・ゲ・ゲ・ゲ」といった表現で紹介されています。

ただし、声だけで性別や年齢を確実に判断するのは簡単ではありません。鳴き声は行動や周囲の状況と組み合わせて考えることで、意味を推測しやすくなります。

【鹿の鳴き声の見分け方】音の高さ・長さ・繰り返し方に注目

鹿の鳴き声を聞き分けたいときは、単に「高い声か、低い声か」だけではなく、音が続く長さ、繰り返す間隔、鳴いたときの周囲の状況を合わせて観察することが大切です。

最初に、遠くまで響く長い咆哮であれば、繁殖期のオスが発するハウルなどが候補になります。特に秋に聞こえる「フィーヨォー」という声は、オスの発情声を考える手掛かりです。ただし、音の印象だけでハウルとモウンを確実に判別できるとは限りません。

続いて、短く鋭い声が聞こえた場合は、警戒音の可能性があります。周囲に人や動物がいる、物音がした直後に鳴いた、といった状況も判断材料になります。複数の個体が短い声を交わしている場合には、仲間同士のコミュニケーションが起きている可能性もあります。

加えて、同じような声が何度も続くかどうかも観察のポイントです。ハウルとモウンでは発声頻度に違いがあり、モウンはほかの個体の声に反応して繰り返される場合があります。しかし、回数だけで鳴き声の種類や個体数を正確に判定することはできません。

録音して比較する場合は、録音した時刻、場所、天候、周囲の環境音も一緒に記録すると、音の特徴を整理しやすくなります。風の音や雨音、道路の騒音は聞き取りを難しくするため、音声の違いを比べる際には注意が必要です。

また、鹿の声が人の叫び声に似て聞こえることもあります。特に夜間は音の発生源が見えにくく、距離や方向を誤って判断しやすくなります。声の印象だけで人の悲鳴や危険な出来事と決め付けず、周囲の状況を落ち着いて確認することが大切です。野生のシカに近づいて鳴き声を確かめようとするのは避けましょう。

【山形大学のシカの鳴き声研究】ハウルとモウンが生息状況を示す

鹿の鳴き声をめぐる研究で、2026年時点の重要な成果の一つが、山形大学などの研究グループによる音響バイオロギングの研究です。山形大学は2025年11月6日に研究成果を発表し、論文は同年10月14日に国際学術誌「Mammalian Biology」で公開されました。

音響バイオロギングとは、録音機などを動物に装着し、その動物が実際に発する音や行動を記録する方法です。この研究では、録音機やGPSなどを組み合わせた首輪を設計し、福島県南会津町に生息する野生のオスジカを対象に、2020年から2022年の秋季に装着試験を繰り返しました。

研究グループは、4歳以上のオスジカ10頭を捕獲して首輪を装着し、そのうち7頭からデータを回収しました。回収した音響データは合計1,109時間に及び、そこから6,846回の鳴き声を抽出。その内訳は、ハウルが362回、モウンが6,484回でした。

この分析によって、ハウルとモウンの発声には異なる特徴があることが分かりました。ハウルの発声頻度は個体差が比較的小さい一方、モウンは個体差が大きく、繁殖縄張りの中心で発声頻度が高くなる傾向が確認されました。

この違いは、シカの鳴き声を生息状況の把握に活用するうえで重要です。研究発表によると、ハウルは成獣のオスと複数のメスで構成される繁殖集団の数を推定する指標になり、モウンは繁殖に適した場所を特定する手掛かりになります。

こうした発声の分析は、シカの分布を調べる「ボイストラップ法」の精度や用途を広げることにもつながります。ボイストラップ法は、野外に録音機を設置して鳴き声を記録したり、録音したハウルを再生して野生のオスの鳴き返しを調べたりする手法です。山形大学の研究グループは、2019年にこの手法を開発し、低密度のシカ個体群の検知にも活用してきました。

背景には、シカの分布が広がり、農林業や森林植生への影響が課題となっていることがあります。シカの数が少ない地域では、目視調査やセンサーカメラだけでは存在を把握しにくい場合があります。鳴き声を使えば、姿が見えにくいシカの定着や繁殖集団の状況を調べる新たな手段になります。

ただし、録音された声の回数が、そのまま個体数を示すわけではありません。同じ個体が何度も鳴くことがあり、天候や周囲の雑音によって発声頻度も変わります。研究成果を個体数の推定や生息地の管理に活用する際は、鳴き声の種類や発声条件を踏まえて分析する必要があります。

【プロの結論】鹿の鳴き声を理解する最も確かな方法は、音だけで意味を決め付けず、季節、音の特徴、発声頻度、周囲の環境を組み合わせて考えることです。「フィーヨォー」は繁殖期のオスを知る手掛かりですが、短い警戒音や親子の呼び声にも、それぞれ異なる役割があります。さらに研究の進展によって、鳴き声はシカの行動を理解するだけでなく、野生動物の分布や繁殖環境を調べるための科学的な情報としても活用されています。

【鹿の鳴き声】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:鹿の鳴き声で「フィーヨォー」と聞こえるのはなぜですか?
A1:主にニホンジカのオスが秋の繁殖期に発する発情声です。縄張りの主張や繁殖行動に関係し、遠くまで響くことがあります。ただし、鳴き声だけで周囲にいるシカの数や行動を断定することはできません。

Q2:鹿の鳴き声は夜にしか聞こえないのでしょうか?
A2:いいえ。夜間に聞こえることはありますが、山形大学などの研究では、ハウルとモウンが一日を通じて発声されることが多いと報告されています。秋の繁殖期は聞く機会が増える時期ですが、時間帯には個体や環境による違いがあります。

Q3:鹿が短く「ピィッ」と鳴くのはどんな意味ですか?
A3:危険を感じたときに仲間へ知らせる警戒音の可能性があります。農林水産省の鳥獣被害対策資料でも、シカが危険を感じると「ピィッ」という音を発することが紹介されています。ただし、音だけでは発声の理由を確定できないため、周囲の状況も合わせて判断しましょう。

まとめ:鹿の鳴き声は季節と行動を読み解く手掛かり

鹿の鳴き声には、オスの発情声であるハウルやモウン、危険を伝える警戒音、メスと子鹿の呼び声など、さまざまな種類があります。秋の山に響く「フィーヨォー」は繁殖期のオスを知る代表的な手掛かりですが、すべての鳴き声が繁殖行動を意味するわけではありません。

聞き分けるときは、声の高さや長さ、繰り返し方だけでなく、季節や天候、周囲の環境にも注目してください。夕暮れや夜間に限らず発声が確認されること、風雨による雑音が大きいと発声頻度が低下することなど、研究によって分かってきた特徴もあります。

山形大学などによる研究は、鹿の鳴き声が生態の理解にとどまらず、繁殖集団の把握や生息地の管理にも役立つことを示しました。森から聞こえる一つの声を、季節と行動を読み解く手掛かりとして捉えること。それが、ニホンジカの生態をより深く理解する第一歩です。

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