2026年5月、会計検査院が公表したマイナポイント事業に関する検査報告書によって、マイナンバーカードの廃止をめぐる実態が改めて明らかになった。2016年1月の交付開始から2025年7月末までに廃止されたカードは1,623万枚余り。このうち「本人希望・その他」に分類されたカードは93万枚余りに上る。しかし、この数字をそのまま自主返納数や返納率とみなすことはできない。再発行に伴う返納なども含まれ、総務省は自主返納に該当する枚数を把握していないためだ。
では、2026年最新の公表資料から何が分かり、何が分からないのか。個人情報のひも付け誤りが問題になった2023年の経緯、返納理由の調査結果、マイナ保険証の登録解除との違い、実際に返納する際の注意点まで、数字の意味を整理する。
この記事の重要ポイントまとめ - 返納率の公式数値は不明: 全国の自主返納数が集計されていないため、正確な返納率は算出できない。 - 93万枚余りは自主返納数ではない: 2025年7月末までの「本人希望・その他」による廃止枚数で、再発行などのケースも含まれる。 - 返納すれば個人番号が無効になるわけではない: マイナンバー自体は引き続き利用され、マイナポータルやマイナ保険証などの機能には影響が出る。
【2026年最新】マイナンバーカード返納率は何%?93万枚の正しい意味
2026年10月28日時点で、全国のマイナンバーカード自主返納率を示す確定的な公表値はない。最新の大きな節目となったのは、会計検査院が2026年5月に公表した検査報告書だ。
報告書によると、カードの交付が始まった2016年1月から2025年7月末までの廃止枚数は1,623万枚余り。そのうち「本人希望・その他」に分類されたものが93万枚余りだった。
ここで重要なのは、93万枚余りは自主返納だけを数えた数字ではないという点だ。住所の追記欄がいっぱいになり、新しいカードを発行するために旧カードを返納したケースなども含まれている。総務省は、この分類から自主返納だけを切り分けた全国の枚数を把握していない。
つまり、「93万枚が返納された」という見出しだけでは、政策への不信感などから自らカードを手放した人が何人いるのかは判断できない。
例えば、93万枚を1億枚で割れば約0.93%という数字は得られる。しかし、これは自主返納数が確定していないうえ、集計期間の異なる数字を組み合わせた計算だ。公式な返納率として扱うことはできない。
現時点で分かるのは、カードの廃止が一定数発生し、その中に自主返納が含まれていること、そして自主返納の全国的な規模を正確に把握するための統計が不足していることだ。
【数字を比較】カード廃止件数・自主返納数・調査結果の違い
会計検査院の報告書には、廃止されたカードの総数だけでなく、自主返納の実態を考えるうえで参考になる調査結果も掲載されている。数字ごとに対象と意味が異なるため、混同しないことが大切だ。
出典:会計検査院「マイナポイント事業に関する会計検査の結果について」。調査の対象期間と集計方法は項目ごとに異なる。
特に注目されるのが、2023年6月分について総務省が12地方公共団体から得た回答だ。「本人希望・その他」に分類された247件のうち、実際に自主返納に該当したものは97件だった。割合にすると約39.3%になる。
ただし、この割合を93万枚全体に掛け合わせて全国の自主返納数を推計することは適切ではない。調査対象は特定の月と12団体に限られており、全国の廃止理由の構成を代表するとは限らないからだ。
また、35,640人を対象にした別の効果測定調査では、85人がカードを返納したと回答した。これも調査対象者の回答に関する数字であり、全国のカード保有者のうち何%が自主返納したかを示すものではない。
【返納理由】個人情報のひも付け誤りで何が起きたのか
自主返納が注目される背景には、2023年に相次いで明らかになったマイナンバー関連のひも付け誤りがある。
2023年5月ごろから、健康保険証情報や公金受取口座などをめぐる登録上の問題が公表された。会計検査院は、こうした事案の公表時期とカード廃止の動きを比較し、2023年5月ごろから8月にかけて「本人希望・その他」に分類された廃止枚数が多くなっていたと指摘している。
検査院は、カードの保有に不安を感じた人の自主返納が増加した可能性があると分析した。ただし、時期が重なっていることだけで、廃止の増加がすべてひも付け誤りによるものだったとは断定できない。
返納したと回答した人の理由についても、会計検査院の報告書には参考となる結果がある。2024年3月に実施された効果測定調査では、返納理由として次の項目が挙げられた。
- 「マイナンバーカードのセキュリティに不信感があるから」:33.1%
- 「政府に対して不信感があるから」:29.4%
- 「マイナンバー制度に不信感があるから」:28.3%
これらの割合は、調査で返納したと回答した人の理由に関する結果であり、国民全体の意識や返納理由の構成をそのまま示すものではない。
それでも、数字から読み取れる論点は明確だ。返納を考える背景には、カードそのものの管理への不安だけでなく、政府への信頼や制度運用への不信感もある。
一方、デジタル庁は、登録情報を本人がマイナポータルで確認する方法や、誤登録に関する相談窓口を案内している。政府は2024年4月までに、健康保険証情報のひも付け誤りに関する確認作業が終了したと説明している。
カードを保有しているかどうかと、行政機関で利用される情報が正しいかどうかは、別々に確認すべき問題だ。
【誤解を解消】自主返納とカード廃止は何が違う?返納率の計算方法
マイナンバーカードの「廃止」は、カードが有効な状態ではなくなることを指す。自主返納は、その廃止に至る理由の一つにすぎない。
廃止には、本人の希望による返納のほか、有効期限の満了、国外転出、死亡、紛失後の再交付など、さまざまな事情が関係する。「本人希望・その他」という区分にも、再発行に伴う返納などが含まれる。
したがって、カード廃止件数と自主返納数を同じものとして扱うと、返納の実態を過大に見積もるおそれがある。
返納率を正しく計算するには、分子と分母を同じ条件でそろえる必要がある。
例えば、一定期間の自主返納率を求めるなら、次のような定義が考えられる。
- 分子:その期間に自主返納したカードの枚数
- 分母:期間の開始時点で保有されていたカードの枚数
- 計算式:自主返納率 = 期間中の自主返納枚数 ÷ 期間開始時点の保有枚数 × 100
ただし、これは期間を明示した返納率の定義例だ。カードの累計発行枚数を分母にする場合は、別の指標となるため、何を測る数字なのかを明示しなければならない。
2026年10月時点で全国の自主返納数が把握されていない以上、どの定義を採用しても、信頼できる全国の自主返納率を算出するための分子が不足している。
「93万枚余り」という数字は、廃止の実態を考えるうえで重要な資料だ。しかし、それだけで返納率の高低や、国民の何割が制度に反対しているかまで判断することはできない。
【マイナ保険証の解除件数】カード返納と混同してはいけない数字
カードの返納を考える際、もう一つ区別したいのがマイナ保険証の利用登録解除だ。
マイナ保険証は、マイナンバーカードを健康保険証として利用するための登録を指す。利用登録の解除は、カードそのものを返納したり廃止したりすることとは異なる。
会計検査院によると、マイナ保険証の利用登録解除申請は、受付が始まった2024年10月28日から2025年7月までに15万件余りに達した。解除を希望した理由としては、個人情報の漏えいへの心配、利用するメリットを感じないこと、紛失時の懸念、紙の資格確認書を持ちたいことなどが挙げられている。
また、厚生労働省の2026年10月時点の案内では、2026年8月のマイナ保険証の利用登録解除申請受付件数は7,394件とされている。これは8月の受付件数であり、累計のカード返納数ではない。
ここで押さえておきたいのは、次の3つの数字はそれぞれ意味が異なるということだ。
- カードの自主返納数: カード自体を本人の希望で返納した枚数
- カードの廃止件数: 返納や有効期限切れなどで廃止されたカードの枚数
- マイナ保険証の登録解除件数: 健康保険証としての利用登録を解除する申請の件数
マイナ保険証の利用登録を解除しただけでは、通常、マイナンバーカード自体が廃止されるわけではない。逆に、カードを返納すれば、マイナ保険証としての利用もできなくなる。
従来の健康保険証は2025年12月1日までに有効期限が終了しており、2026年現在、マイナ保険証を使わない場合などの受診方法として「資格確認書」が案内されている。カードを返納する場合は、医療保険の資格確認に支障が出ないよう、加入する保険者に必要な手続きを確認しておきたい。
【返納手続きとメリット・デメリット】後悔しないための確認事項
マイナンバーカードの自主返納は可能だ。一般的には、住民票のある市区町村の窓口にカードを持参し、返納届を提出する。必要書類や受付場所は自治体によって異なるため、事前に確認しておくとよい。
ただし、返納はカードを使わなくする手続きであって、個人番号そのものを消す手続きではない。12桁のマイナンバーは、カードを返納しても法律に基づいて行政機関などで引き続き利用される。
返納を判断する際には、次のメリットとデメリットを比較したい。
返納するメリット
- カードを持ち歩いたり、紛失しないよう管理したりする負担を減らせる。
- カードの利用に心理的な不安がある場合、カードを手元に置かない選択ができる。
- 今後カードを使う予定がない人は、利用頻度に応じて保有の必要性を見直せる。
返納するデメリット
- マイナポータルにカードでログインできなくなり、健康保険証情報や公金受取口座などをオンラインで確認する手段が制限される。
- マイナ保険証としての利用や、カードを使った本人確認・電子申請などの機能を利用できなくなる。
- 返納後に再取得する場合、手数料がかかることがある。自治体の案内では、再交付手数料を1,000円、電子証明書が不要な場合を800円とする例もあるため、居住する自治体の最新情報を確認したい。
特に注意したいのが、返納によって情報のひも付け誤りのリスクそのものがなくなるわけではない点だ。マイナンバーはカードとは別に存続するため、情報の正確性が心配な人は、返納だけでなく登録状況の確認も検討したい。
デジタル庁は、マイナポータルを使って健康保険証情報や公金受取口座などを確認する方法を案内している。2026年8月にはアプリの名称が「マイナアプリ」に変更された。返納を検討している場合は、カードが使えるうちに必要な情報を確認しておくとよい。
【マイナンバーカード返納率】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:マイナンバーカードの返納率は2026年現在、何%ですか?
A1:全国の自主返納数が把握されていないため、正確な返納率は公表されていない。会計検査院が2026年5月に公表した資料では、2025年7月末までに「本人希望・その他」で廃止されたカードが93万枚余りとされているが、この数字には再発行に伴う返納なども含まれる。
Q2:93万枚余りは、93万人が自主返納したという意味ですか?
A2:そうとは限らない。93万枚余りは「本人希望・その他」に分類された廃止カードの枚数であり、自主返納だけを集計したものではない。また、枚数と人数は必ずしも一致しないため、93万人が自主返納したと断定することもできない。
Q3:マイナンバーカードを返納すると、個人番号や登録情報は消えますか?
A3:個人番号そのものは消えない。カードを返納しても、マイナンバーは法律に基づいて行政機関などで引き続き利用される。また、返納しただけで、各機関が保有する登録情報が一括して削除されるわけではない。登録状況の確認や変更が必要な場合は、該当する情報の管理機関に手続きを確認する必要がある。
まとめ:返納率の数字だけで判断せず、制度の実態を確認する
2026年最新の会計検査院の公表資料で明らかになったのは、2025年7月末までに「本人希望・その他」の理由で廃止されたカードが93万枚余りに上ったという事実だ。一方、再発行に伴う返納なども含まれており、全国の自主返納数や返納率は分からない。
個人情報のひも付け誤りが公表された2023年に廃止枚数が増加したことや、調査でセキュリティや政府への不信感が返納理由として挙げられたことは、制度への信頼を考えるうえで重要な材料となる。ただし、これらの数字から国民全体の意向や返納の規模を単純に推定することはできない。
返納するかどうかを判断する際は、カード廃止件数と自主返納数を区別し、マイナポータルでの情報確認、マイナ保険証の利用登録解除、資格確認書の取得など、目的に合った選択肢を比較することが大切だ。 今後は、行政側が自主返納数をより正確に把握し、カードの保有状況だけでなく、利用者の不安や制度への信頼も含めて説明できるかが問われる。