「お先に上がらさせていただきます」と職場で挨拶したり、上司へのメールに書いたりしたことはありませんか。丁寧に伝えようとした表現ですが、実は「上がらさせていただきます」には、文法上の問題があります。正しくは「上がらせていただきます」です。
この違いは、余分な「さ」が入る「さ入れ言葉」に関係しています。ただし、正しい形を覚えるだけでは十分ではありません。退勤時には「お先に失礼いたします」のほうが自然な場合もあり、「させていただきます」自体も、相手の許可や恩恵との関係によって適切さが変わります。文化庁の敬語に関する解説も踏まえ、2026年時点で押さえておきたい文法のポイント、会話やビジネスメールの例文、アルバイト先での挨拶まで整理します。
【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「上がらさせていただきます」は、不要な「さ」が入った「さ入れ言葉」です。基本的には「上がらせていただきます」が正しい形です。
- 要点2:退勤時の挨拶なら「お先に失礼いたします」が幅広い職場で使いやすく、自然で簡潔な表現です。
- 要点3:「させていただきます」は、相手の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受けるという条件があるかを考えて使うと、過剰な敬語を避けられます。
【結論】「上がらさせていただきます」は誤用?正しい敬語との違い
「上がらさせていただきます」は、標準的な文法では「さ入れ言葉」に当たります。正しくは「上がらせていただきます」です。「さ」を一文字加えることで丁寧さが増すわけではなく、かえって不自然な言い回しになってしまいます。
文化庁が公表している平成19年度「国語に関する世論調査」では、「明日は休まさせていただきます」という表現について、本来は「休ませていただきます」とするのが適切だと説明しています。「させていただく」という形を一つの決まった敬語として捉え、あらゆる動詞にそのまま付けてしまうことが、さ入れ言葉の原因になるとされています。
「上がる」も同じ考え方で整理できます。「上がる」は五段活用の動詞で、使役形は「上がらせる」です。そこに「いただく」を組み合わせるため、「上がらせていただきます」となります。
つまり、次のように覚えておくと間違いを防げます。
誤:「本日はお先に上がらさせていただきます」
正:「本日はお先に上がらせていただきます」
ただし、後者が文法的に正しいからといって、あらゆる場面で最適とは限りません。通常の退勤時には「お先に失礼いたします」のほうが簡潔で自然な場合もあります。文法の正しさと、状況に合った敬語選びは分けて考えることが大切です。
【文法を整理】さ入れ言葉の意味・理由と見分け方
さ入れ言葉とは、本来「せて」とするべきところに、不要な「さ」を加えて「させて」としてしまう言い方です。丁寧に話そうとする意識が強いときや、「させていただきます」という言い回しを多用しているときに起こりやすいとされています。
見分ける基本的な方法は、動詞の活用を確認することです。特に、五段活用の動詞に「させていただく」を付けようとしたときは注意しましょう。
例えば、「帰る」は「帰らない」、「休む」は「休まない」、「読む」は「読まない」となります。これらの動詞は、使役形を作るときに「せる」を付けるため、「帰らせる」「休ませる」「読ませる」が正しい形です。
一方、「食べる」のような一段活用の動詞は「食べさせる」となります。この場合の「さ」は不要な挿入ではなく、文法上必要なものです。したがって、「させて」という文字が含まれているからといって、すべてがさ入れ言葉になるわけではありません。
主な例を比較すると、次のようになります。
- 帰らさせていただきます → 帰らせていただきます
- 休まさせていただきます → 休ませていただきます
- 読まさせていただきます → 読ませていただきます
- 行かさせていただきます → 行かせていただきます
- 食べさせていただきます → 文法上、「さ」の追加による誤用ではない
ここで注意したいのが、「させていただきます」そのものは間違いではないという点です。文化庁の「敬語おもしろ相談室」では、この表現について、基本的には自分側の行為に相手や第三者の許可を受け、その行為によって恩恵を受けるという事実や気持ちがある場合に使うと解説しています。
例えば、相手の所有物をコピーする許可を求める「コピーを取らせていただけますか」は、許可を求める意味が明確です。一方、許可を求める必要がない場面では「発表いたします」のような簡潔な表現が適している場合もあります。丁寧さを増やすことだけを目的に「させていただきます」を重ねる必要はありません。
【意味と使い分け】「上がらせていただきます」は退勤にも訪問にも使う
「上がる」は、仕事を終えて退勤する意味で使われるほか、相手の家や場所を訪れる、室内に入るといった意味でも使われます。したがって、「上がらせていただきます」の意味は、前後の文脈によって変わります。
職場で「お先に上がらせていただきます」と言えば、通常は自分が先に仕事を終えて退勤することを伝えています。「お先に仕事を上がらせていただきます」を短くした言い方として理解できます。
一方、「ご挨拶に上がらせていただきます」は、相手のもとを訪問して挨拶するという意味で使われます。例えば、取引先や目上の人のもとを訪れることを伝える場合です。この場合は退勤の意味ではありません。
ただし、訪問の連絡であれば「ご挨拶に伺います」「改めてご挨拶に伺いたく存じます」としたほうが、現代のビジネス文書では意図が伝わりやすい場合があります。「ご挨拶に上がらさせていただきます」とすると、さ入れ言葉の問題に加え、表現も長くなってしまいます。
「敬語の窓口」や「Learncity」のように、「お先に上がらせていただきます」の意味やビジネスでの使い方を解説する情報もあります。こうした解説を参考にする場合も、まずは「上がる」が退勤を指すのか、訪問を指すのかを区別すると、場面に合った言葉を選びやすくなります。
また、「お先に上がらせていただきます」が適切かどうかは、職場の慣習や退勤の状況にも左右されます。上司の許可を得て早退する場合と、所定の勤務時間を終えて通常どおり退勤する場合では、伝えるべき内容が異なります。文法が正しい表現を選ぶことに加えて、相手に何を伝える必要があるのかを考えましょう。
【敬語の言い換え比較】退勤時はどの表現が自然?
退勤時の挨拶には複数の選択肢があります。相手との関係、職場の雰囲気、退勤の理由によって使い分けるのが基本です。
| 表現 | 丁寧さ・ニュアンス | 適した場面 |
|---|---|---|
| お先に失礼いたします | 丁寧で簡潔。退勤時の挨拶として幅広く使える | 上司、同僚、取引先がいる職場での通常の退勤 |
| お先に上がらせていただきます | へりくだった丁寧な表現。許可や配慮を意識させる | 先に退勤することを丁寧に伝えたい場面 |
| お先に上がります | 自然で比較的簡潔。職場での慣習になじみやすい | 普段から会話する同僚やアルバイト先 |
| 本日はこれで退勤いたします | 業務上の事実を明確に伝える表現 | 業務連絡、社内チャット、引き継ぎの連絡 |
| 本日はお先に失礼いたします。ありがとうございました | 退勤の挨拶に感謝を添えた表現 | 早退や勤務調整への配慮にお礼を伝えたい場面 |
迷ったときの第一候補は「お先に失礼いたします」です。相手に退勤の許可を求めているわけではなく、仕事を終えて先に退出することを伝えるだけなら、この表現で十分に丁寧です。
「お先に上がらせていただきます」も、状況に合っていれば使用できます。例えば、勤務時間の変更について上司に相談していた場合や、先に退勤することについて配慮を受けた場合は、へりくだった言い方が自然になじむことがあります。
反対に、毎日の退勤時に必要以上に長い敬語を使うと、回りくどく感じられることがあります。敬語は長いほど丁寧になるわけではありません。相手への敬意を保ちつつ、用件を簡潔に伝えることがポイントです。
【会話・アルバイト編】お先に上がらせていただきますの使い方と例文
退勤時の挨拶では、言葉そのものだけでなく、誰に向けて伝えるのかも重要です。上司や同僚に一言伝えるだけでよい職場もあれば、責任者への報告や引き継ぎが必要な職場もあります。
例文1:通常の退勤時に上司や同僚へ伝える場合
「お先に失礼いたします。お疲れさまでした。」
勤務を終えたことを簡潔に伝えられる表現です。相手に過度なへりくだりを感じさせず、一般的な職場でも使いやすい挨拶です。
例文2:先に退勤することを丁寧に伝える場合
「お先に上がらせていただきます。本日もありがとうございました。」
職場の慣習に合っていて、先に退勤することを丁寧に伝えたい場合に使えます。ただし、許可や配慮を受けていない通常の退勤であれば、「お先に失礼いたします」でも十分です。
例文3:勤務時間の調整に対応してもらった場合
「本日は勤務時間を調整していただき、ありがとうございました。お先に失礼いたします。」
退勤する事実と、相手への感謝を分けて伝える例です。「させていただきます」を使わなくても、配慮へのお礼を添えることで丁寧な印象になります。
例文4:アルバイト先で先に上がる場合
「お先に失礼します。お疲れさまでした。」
飲食店や小売店などのアルバイトでは、職場で普段使われている挨拶に合わせると自然です。責任者や先輩に対しても、丁寧な言い方を心がければ問題ありません。
ただし、接客中のスタッフが残っている場合や、引き継ぎが済んでいない場合は、挨拶だけで退勤するのではなく、必要な業務連絡を先に済ませましょう。退勤時のビジネスマナーは、敬語の形だけでなく、業務に支障が出ないようにする配慮も含みます。
また、早退や急な退勤では、通常の挨拶と事情の説明を区別することが大切です。責任者への報告が必要な場合は、「本日は体調不良のため、早退させていただきます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」といった形で、理由とお詫びを明確に伝えます。この場合の「早退させていただきます」は、職場の許可や調整を伴う状況で使いやすい表現です。
【ビジネスメール編】上がらせていただきますの正しい書き方と例文
メールや社内チャットで退勤を伝える場合、会話よりも用件を明確にすることが大切です。特に、業務の途中で退勤する場合や、対応をほかの人に引き継ぐ場合は、退勤の挨拶だけでは情報が不足することがあります。
「上がらせていただきます」という表現はメールでも使えますが、文面では「退勤いたします」「お先に失礼いたします」のように、状況に応じて簡潔な表現に置き換えると読みやすくなります。
例文1:社内メールやチャットで通常の退勤を伝える
「お疲れさまです。本日の業務を終了しましたので、お先に失礼いたします。残件については、明朝対応いたします。よろしくお願いいたします。」
退勤の報告に加えて、残っている業務をいつ対応するのかを示しています。チームで仕事をしている場合は、退勤後の対応について認識を合わせやすくなります。
例文2:上司に丁寧に退勤を報告する
「お疲れさまです。本日の担当業務が完了しましたので、これで退勤いたします。ご確認が必要な事項は、共有フォルダに整理しております。よろしくお願いいたします。」
「退勤いたします」は、退勤する事実を明確に伝える表現です。相手から許可を受けることを強調する必要がない場合は、このように簡潔な敬語を使うと自然です。
例文3:上司の了承を得て早めに退勤する
「お疲れさまです。本日は退勤時間についてご調整いただき、ありがとうございます。お先に失礼いたします。引き継ぎ事項は担当者へ共有済みです。」
この例では、退勤することに対する許可や配慮への感謝を明確にしています。「上がらせていただきます」を使わなくても、相手への配慮は十分に伝えられます。
例文4:「上がらせていただきます」を使って伝える
「お疲れさまです。本日の業務が終了しましたので、お先に上がらせていただきます。引き継ぎ事項は共有済みです。よろしくお願いいたします。」
この文面も、文法上は「上がらせていただきます」と正しい形になっています。ただし、会社の連絡ルールによっては「退勤いたします」のほうが適切です。メールでは、必要以上にへりくだるよりも、退勤の事実と業務の引き継ぎを明確に伝えることを優先しましょう。
なお、退勤時に毎回メールを送る必要があるかどうかは、会社の運用によって異なります。日常的な退勤連絡は社内チャットで済ませ、重要な引き継ぎや早退の報告だけメールにする職場もあります。敬語の正しさだけでなく、社内ルールに合った連絡手段を選ぶこともビジネスマナーの一つです。
【プロの結論】敬語は「正しい形」と「伝わる場面」の両方で判断する
「上がらさせていただきます」を避けるために覚えておきたいのは、動詞の活用を確認することと、相手との関係に合わせて表現を選ぶことです。「上がる」は五段活用なので、「上がらせていただきます」が基本の形です。しかし、実際の職場では、文法的に正しい表現をそのまま使えば必ず自然になるとは限りません。
退勤の挨拶で迷ったら、まず「お先に失礼いたします」を選ぶとよいでしょう。よりへりくだった表現が必要な場合や、職場の慣習として定着している場合は「お先に上がらせていただきます」も選択肢になります。訪問を伝える場合は「ご挨拶に伺います」、業務上の報告なら「退勤いたします」と使い分けることで、意図が伝わりやすくなります。
敬語は、難しい言葉を多く使うことではなく、相手に配慮しながら必要な情報を正確に伝えるためのものです。誤用を避けることに加え、簡潔さ、状況への適合、引き継ぎへの配慮を意識すれば、日常の会話から正式なビジネスメールまで、無理のない敬語を使えるようになります。
【上がらさせていただきます】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「上がらさせていただきます」は絶対に使ってはいけませんか?
A1:標準的な文法では、不要な「さ」が入ったさ入れ言葉に当たるため、「上がらせていただきます」とするのが適切です。丁寧に伝えたい場合でも、余分な「さ」を加える必要はありません。
Q2:「お先に上がらせていただきます」と「お先に失礼いたします」はどちらが正しいですか?
A2:どちらも場面に応じて使えます。「お先に上がらせていただきます」は文法的に正しい表現ですが、通常の退勤時には「お先に失礼いたします」のほうが簡潔で幅広く使えます。職場の慣習や退勤の状況に合わせて選びましょう。
Q3:「上がらせていただきます」はビジネスメールでも使えますか?
A3:使えます。ただし、退勤の事実を報告するだけなら「退勤いたします」、挨拶として伝えるなら「お先に失礼いたします」とする方法もあります。残件や引き継ぎがある場合は、対応状況も併せて伝えると親切です。
Q4:「ご挨拶に上がらせていただきます」もさ入れ言葉ですか?
A4:「ご挨拶に上がらせていただきます」は、余分な「さ」を入れていないため、さ入れ言葉ではありません。相手のもとを訪れて挨拶するという意味で使えます。ただし、ビジネスの連絡では「ご挨拶に伺います」とすると、より簡潔で分かりやすい場合があります。
Q5:アルバイトの退勤時は「お先に上がります」でも失礼ではありませんか?
A5:職場の雰囲気や慣習に合っていれば、自然な表現です。責任者や先輩には「お先に失礼します」とすると、より丁寧に伝えられます。業務の引き継ぎが必要な場合は、挨拶に加えて必要事項を報告しましょう。
まとめ:正しい敬語と自然な退勤の挨拶を使い分けよう
「上がらさせていただきます」は、不要な「さ」が入ったさ入れ言葉です。正しい形は「上がらせていただきます」ですが、退勤時には「お先に失礼いたします」や「退勤いたします」など、状況に応じた言い換えも役立ちます。
また、「させていただきます」は、相手の許可や恩恵との関係を考えて使うことが大切です。文法だけにこだわらず、相手との関係、伝える目的、職場の慣習を踏まえて選ぶことで、過剰にならず自然な敬語になります。
日々の退勤時には、まず「お先に失礼いたします」を基本にし、許可や配慮への感謝を伝えたい場合は、その内容を具体的に添えてみてください。正しい言葉遣いと分かりやすい業務連絡を両立することが、信頼されるビジネスコミュニケーションにつながります。