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ニホンジカの鳴き声は「フィーヨー」?発情期の理由と夜に響く声を徹底解説

黒瀬 亮 黒瀬 亮 • 更新: • 公開: • 読了約 17 分
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山や森の中から突然、「フィーヨー」「ヒョーン」と聞こえる甲高い声。人の叫び声にも似たこの音は、ニホンジカのオスが繁殖期に発する鳴き声可能性があります。秋になると山中に響き渡る独特の声には、メスへのアピールや、ほかのオスに自分の存在を知らせる役割があります。

ニホンジカの鳴き声は、単純に一種類ではありません。発情期のオスが発する「ハウル」や「モウン」、メスと子鹿の間で交わされる接触音、危険を知らせる警戒音など、性別や年齢、行動によって異なります。2025年に山形大学が公表した研究成果では、野生のオスジカの発声を詳しく分析し、鳴き声が繁殖集団の把握や生息地の評価にも役立つことが示されました。

【この記事の重要ポイントまとめ】
  • 鳴き声の正体:「フィーヨー」「ヒョーン」と表現される高い声は、主に繁殖期のオスが発するラッティングコール(発情声)です。
  • 鳴く理由と時期:主な目的は繁殖期の社会的なコミュニケーション。交尾期は一般に9月下旬~11月ごろですが、声が聞こえる時期には地域差があります。
  • 夜に聞こえる理由:オスは夜間にも発声します。研究では日中を含めて一日中鳴くことが確認されており、夕方や夜だけに鳴くわけではありません。

【ニホンジカの鳴き声は「フィーヨー」?音声の特徴と文字表現】

ニホンジカ鳴き声

ニホンジカの鳴き声を文字で表すとき、よく使われるのが「フィーヨー」「ヒョーン」といった表現です。石川県白山自然保護センターの資料『白山の自然誌37 ニホンジカの生態』でも、縄張りを持つオスの高い鳴き声が「フィーヨー」のような音として紹介されています。

ただし、これは音の印象を日本語に置き換えた擬音語です。すべてのニホンジカが同じ音を発するわけではなく、録音する距離や周囲の環境、発声の種類によっても聞こえ方は変わります。文字表現だけで、鳴いた個体の性別や行動を確実に判断することはできません。

オスの発情声は大きく分けて2種類

ニホンジカの発情期の鳴き声を研究する際には、主に「ハウル(howl)」と「モウン(moan)」という音声が区別されます。どちらも繁殖期のオスが発する声ですが、役割や発声頻度には違いがあります。

  • ハウル:遠くまで届く大きな咆哮。縄張りや個体の存在をほかのオスに知らせる役割を持ちます。
  • モウン:ハウルよりも頻繁に発せられる発情声。メスを囲い込む縄張りの中心などで発声頻度が高まることが確認されています。

麻布大学の南正人氏による2013年の研究発表では、ハウルは約1km、モウンは約200mまで届く音声として報告されています。これは研究で示された到達距離の目安であり、実際の聞こえる距離は地形や風、周囲の雑音などに左右されます。

つまり、遠くから一度だけ響く長い声と、比較的近い場所から繰り返し聞こえる声とでは、同じオスの発情声でも意味が異なる可能性があります。鳴き声の長さや高さだけでなく、回数や周囲の状況を合わせて捉えることが大切です。

【オスジカのラッティングコールは何のため?2025年の研究で見えた役割】

ニホンジカが鳴く理由を理解するうえで重要なのが、秋の繁殖期におけるオス同士の関係です。環境省の鳥獣保護管理に関する研修資料では、交尾期を9月下旬~11月ごろとし、強いオスが縄張りを形成して複数のメスを囲い込む社会構造が説明されています。

この時期にオスが発する特徴的な声が、ラッティングコール(発情声)です。メスへのアピールだけでなく、ほかのオスに自分の存在や縄張りを知らせることも重要な役割です。声は繁殖をめぐる競争の中で、視界が利きにくい森林でも情報を伝える手段になります。

ハウルは存在の主張、モウンは縄張りの利用状況を示す

2025年11月6日、山形大学は、野生のオスジカの鳴き声を音響バイオロギングによって分析した研究成果を公表しました。研究では、録音機などを搭載した首輪を使い、福島県南会津町のオスジカを対象に、2020~2022年の秋季に調査を実施。10頭に装着し、7頭からデータを回収しています。

回収した音響データは合計1,109時間に及び、そこから6,846回の鳴き声を抽出。内訳はハウルが362回、モウンが6,484回でした。分析の結果、ハウルは繁殖集団の数を把握する指標になり、モウンは繁殖に適した縄張りの中心を見つける手がかりになることが示されました。研究成果は2025年10月に国際学術誌『Mammalian Biology』で公開されています。

特に注目されるのは、鳴き声が単なる繁殖行動の一部にとどまらず、野生動物の調査にも利用できる点です。山形大学などが進めてきた「ボイストラップ法」は、オスジカの咆哮を検知して、シカが新たに侵入した段階や、メスを含む繁殖集団が定着し始めた段階を把握する手法です。鳴き声の発声様式が明らかになることで、生息状況の評価にも活用の幅が広がっています。

同研究では、ハウルとモウンの発声頻度が、必ずしも薄明薄暮に限られないことも確認されました。風雨による環境雑音が大きいと発声頻度が低下する傾向も報告されており、聞こえた回数だけで個体数や繁殖状況を単純に推定できるわけではありません。

【鹿の鳴き声はいつ聞こえる?発情期・夜の時間帯を研究データで比較】

鹿の鳴き声が聞こえやすい時期は、一般に秋です。ニホンジカの交尾期は9月下旬~11月ごろとされ、繁殖期のオスが発する声もこの時期に目立ちます。ただし、地域や調査期間によって発声のピークは異なり、秋以外に鳴き声が確認されることもあります。

麻布大学の南正人氏が2021年に発表した研究では、奈良公園と宮城県の金華山で、オスの大きな発情声であるハウルの頻度と時間帯が調べられました。奈良公園では1年間の調査で9月から翌年3月まで発声が確認され、11月に最も多くなりました。一方、金華山では調査期間中の10月上旬から中旬に多く確認されています。

研究結果を整理すると、次のようになります。

項目 確認された特徴 読み取る際のポイント
主な繁殖期 9月下旬~11月ごろ 地域や個体群によって時期には差がある
奈良公園のハウル 9月~翌年3月に確認。11月が最多 繁殖期以外にも発声が記録された
金華山のハウル 10月上旬~中旬に多かった 奈良公園とはピークの時期が異なる
時間帯 日の出・日の入りごろにピーク。夜間にも発声 夜だけ、あるいは夕方だけに鳴くわけではない
発声の種類 ハウルとモウン 役割や頻度が異なるため、同じ声として扱わない

出典は、南正人氏による2021年の学術論文「奈良公園と金華山におけるニホンジカの発情声Howlの頻度の日周変化」と、環境省の鳥獣保護管理に関する研修資料です。

夜に響く声が怖く聞こえる理由

夜の山で鹿の鳴き声が怖く感じられるのは、音が甲高く、遠くまで響くうえ、暗闇では発声した動物の姿を確認しにくいためです。東京都御岳ビジターセンターも、繁殖期のオスが発するラッティングコールは人間の叫び声のように聞こえ、夜間には驚くことがあると紹介しています。

2021年の研究では、奈良公園のハウルは11月に日の出と日の入りごろに頻度のピークがあり、夜間にも小さなピークが認められました。2025年の山形大学の研究では、ハウルとモウンの両方が一日を通して発声されることが多いと報告されています。

両者は調査方法や対象とする音声が異なるため、必ずしも矛盾する結果ではありません。発声が特定の時間帯に集中する傾向があっても、その時間以外に鳴かないわけではないのです。

【メスや子鹿も鳴く?ニホンジカが鳴く理由と声の違い】

ニホンジカの鳴き声と聞いて、秋のオスの咆哮を思い浮かべる人は多い可能性があります。しかし、ニホンジカは繁殖期のオスだけが鳴く動物ではありません。メスや子鹿にも、それぞれの行動に応じた発声があります。

日本哺乳類学会の学術誌に掲載された南正人氏・川道武男氏の1992年の研究では、性別や年齢の異なるニホンジカの鳴き声620例を録音・分析し、5つの音声群と13種類の鳴き声を分類しました。オスでは繁殖期に鳴き声の種類と発声頻度が増え、メスの鳴き声の多くは季節を問わず母子間の接触に使われていました。

オス・メス・子鹿の声を見分けるポイント

  • 成獣のオス:繁殖期には、遠くまで響くハウルや、比較的頻繁に発せられるモウンなどの発情声を出します。縄張りの主張や繁殖をめぐるコミュニケーションが主な目的です。
  • メス:母子間の接触などに使う声を発します。発情期のオスのような大きな咆哮だけが、シカの典型的な鳴き声ではありません。
  • 子鹿:母親との接触や不安、危険に関係する場面で発声することがあります。声の印象は成長段階や状況によって異なり、擬音語だけで年齢を断定するのは困難です。
  • 警戒時のシカ:危険を察知すると、短く高い声で仲間に警戒を知らせることがあります。繁殖期のオスの咆哮とは、音の長さや発声する状況が異なります。

ニホンジカはなぜ鳴くのか

鳴く理由は大きく分けて、繁殖、個体間の接触、警戒、攻撃や威嚇などです。森林では相手の姿が見えないことも多く、音声は個体同士が情報を伝えるための重要な手段になります。

例えば、発情期のオスが出す声は、ほかのオスに存在を知らせたり、メスを囲い込む縄張りの中で発声したりする行動と結びついています。一方、メスの接触音や警戒音は、必ずしも繁殖とは関係しません。

そのため、鹿の鳴き声を聞いたときは、音の高さだけでなく、季節、鳴き方、周囲にいる個体、声が繰り返される頻度などを組み合わせて考える必要があります。

【鹿の鳴き声が怖いのはなぜ?カモシカとの違いも解説】

ニホンジカの発情声は、甲高く、長く伸びることがあり、人間の悲鳴や叫び声を連想させます。特に夜間は視覚情報が少なく、音の発生源までの距離や方向をつかみにくいため、実際以上に不気味に感じられることがあります。

しかし、声が怖く聞こえるからといって、直ちに危険な状況を意味するわけではありません。発情期のオスが鳴くのは、繁殖をめぐるコミュニケーションの一環です。ただし、発情期のオスはほかのオスを追い払う行動を取ることもあるため、野生個体に近づいたり、声をまねて呼び寄せたりすることは避けましょう。

ニホンジカとカモシカは鳴き声だけで区別できる?

ニホンジカとニホンカモシカは名前が似ていますが、分類上は異なる動物です。ニホンジカはシカ科、ニホンカモシカはウシ科に属します。鳴き声にも違いはありますが、声だけで確実に見分けるのは簡単ではありません。

  • ニホンジカ:繁殖期のオスが「フィーヨー」「ヒョーン」と表現される高い発情声を発します。警戒音や母子間の接触音など、別の種類の声もあります。
  • ニホンカモシカ:地域や状況によって観察される音声の記録が異なります。三重県鈴鹿山系の方言・動物呼称に関する資料では、「シャー」という鳴き声の記録もありますが、全国のカモシカに共通する鳴き声として扱うことはできません。

見分けるときは、鳴き声よりも姿の特徴を確認するほうが確実です。群馬県長野原町などの自治体資料によると、ニホンジカはオスに枝分かれした角があり、メスや子どもには角がありません。一方、ニホンカモシカはオス・メスともに後ろ向きに伸びる角を持っています。

つまり、「フィーヨーと鳴いたから必ずニホンジカ」「シャーと聞こえたからカモシカ」と、単一の音だけで断定するのは避けたいところです。鳴いた季節や状況、動物の姿、角の形などを総合して判断しましょう。

【ニホンジカの鳴き声を音声・動画で確かめる方法】

ニホンジカの鳴き声を実際に聞いてみたい場合は、動物の映像だけでなく、録音条件や発声の種類が説明された音声資料を選ぶことが大切です。動画のタイトルに「鹿の鳴き声」と書かれていても、発情声なのか警戒音なのか、ニホンジカなのか別のシカ科動物なのかが明確でない場合があります。

音声・動画を探すときのチェックポイント

  • 撮影地と季節:秋の繁殖期に録音された音声か、地域が明記されているかを確認します。
  • 発声した個体:成獣のオス、メス、子鹿のいずれかが分かる映像・解説を優先します。
  • 音声の種類:ラッティングコール、ハウル、モウン、警戒音などの区別が説明されているかを確認します。
  • 録音環境:風切り音やマイクの特性、編集によって、実際の聞こえ方が変わる可能性を考慮します。
  • 情報の出所:大学や自然保護施設、研究機関など、撮影対象や調査方法を説明している提供元を優先します。

検索する場合は、「ニホンジカ 発情声 音声」「オスジカ ハウル モウン 録音」「ニホンジカ 鳴き声 動画」などの語句を使うと、発情声を中心とした資料を探しやすくなります。メスや子鹿の声を知りたい場合は、「ニホンジカ 母子 接触音」「ニホンジカ 警戒音」といった語句も有効です。

また、研究論文で扱われるハウルやモウンは、野生動物の分布や繁殖集団を調べるための音声資料としても利用されています。山形大学が2025年に公表した研究成果は、音声の種類や発声頻度を調べることが、シカの生息状況の把握に役立つことを示す事例です。

実際の音を聞く際には、音量を上げすぎないことも大切です。夜間の山中で鳴き声が聞こえても、音源を探すために暗い林へ入ったり、鳴きまねをして動物を誘い出したりする必要はありません。安全な場所から観察し、野生動物との距離を保ちましょう。

【ニホンジカの鳴き声】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:ニホンジカの鳴き声は本当に「フィーヨー」と聞こえる?
A1:はい。石川県白山自然保護センターの資料では、縄張りを持つオスの高い発情声が「フィーヨー」のような音として紹介されています。ただし、これは聞こえ方を表した擬音語であり、発声の種類や録音環境によって印象は変わります。

Q2:鹿の鳴き声は何月ごろ、夜の何時に聞こえる?
A2:発情期のオスの声は、一般に9月下旬~11月ごろに目立ちます。研究では日の出・日の入りごろに発声頻度が高まる傾向が確認されていますが、夜間にも鳴きます。決まった時刻にしか鳴かないわけではなく、地域や天候などによっても変わります。

Q3:ニホンジカのメスや子鹿も鳴く?
A3:鳴きます。学術研究では、メスの多くの鳴き声が母子間の接触に使われることや、警戒時に短く高い声が発せられることが報告されています。オスの発情声とは目的や特徴が異なるため、すべての鹿の声を「フィーヨー」とひとまとめにするのは適切ではありません。

まとめ:【プロの結論】ニホンジカの鳴き声は繁殖と生態を知る手がかり

ニホンジカの鳴き声は「フィーヨー」「ヒョーン」と表現されることがありますが、その正体は一種類ではありません。秋の繁殖期にオスが発するラッティングコールには、ハウルやモウンなどの種類があり、縄張りの主張や繁殖集団内のコミュニケーションに関わっています。メスや子鹿も、母子間の接触や警戒などの場面で異なる声を発します。

2025年に山形大学が公表した研究成果は、鳴き声の種類や発声頻度を詳しく分析することで、繁殖集団の数や生息に適した場所を把握できる可能性を示しました。鳴き声は単なる自然の音ではなく、野生動物の生態や分布を調べるための情報でもあります。

鹿の鳴き声を聞き分けたいときは、擬音語だけで判断せず、季節、時間帯、音の長さ、繰り返す頻度、周囲の環境を組み合わせて考えることが重要です。夜の森で不気味な声が響いたときも、繁殖期のオスが発する声という可能性を知っていれば、音の意味を冷静に捉えられます。野生動物との距離を保ちながら、声を手がかりにニホンジカの暮らしを理解していきましょう。

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黒瀬 亮
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